After "Tokimeki-Memorial" with Miss Miharu Tatebayashi

それからの「ときめき」−館林見晴のその後−

Written by KURAMOTO Itaru (No.0000000021)

『もしもし、館林です……。』
あの最初の留守番電話から、もう何年が過ぎただろうか。俺は二流大学の
一年生。そして、ここは館林の部屋。
二人きりのクリスマスって初めてだね、と微笑みながら、俺の横に座って
いる見晴がささやく。そりゃそうだ、と俺は答えた。
三年間、ずっと本当の気持ちを心の奥へ隠してたんだからな。
見晴も俺と同じ大学の一年生。学科こそ違えど、同じ大学によく進学出来
たものだ。特に見晴の学力なら、もっといい大学にはいる事もできたに違い
ないのに……。
 いいの、そんなこと。だって、あなたと一緒にいられるんだもん。俺の腕
を取って見晴は言った。シャンプーの香りが心地いい。見晴は腕によりかか
ったまま、ぼんやりと灯るキャンドルライトを見つめながら、あの頃の話を
してくれた。
 今日はクリスマスだから特別にね、と目を細めながら……。

 ねえ、覚えてる?
 高校二年生のクリスマス。ほら、あの雪になった日のこと。え、覚えてな
いの? それじゃ、藤崎さんと帰ったといえば思い出す?
 そう、そのクリスマス。実は私、あの日伊集院さんのパーティ会場に行っ
てたの。気づかなかった? そうかもね。だって私、会場の隅でじっとして
たから。そうして、ずっとあなたの方ばかりを見ていたの。
 あの時、藤崎さんのプレゼントもらってとっても喜んでた。私それ見て、
すごくうらやましかったな……。私がもしプレゼント渡しても、あんなには
喜んでくれないだろうって思ったから。やだ、今は喜んでくれるってわかっ
てる。
 それから藤崎さんと二人で帰ってたよね。雪を見ながら、楽しそうにふざ
けあってたよね。実は私、ずっと後ろから見てたの。どうしてもあなたの側
に、せめて一秒でも長くいたかったし、あなたの姿を、せめて一瞬でも長く
見たかったから。
 つらかっただろうって? うん……とってもつらかった。あなたと藤崎さ
んって、たくさん思い出があるみたいだったから。私はあなたと一度もデー
トに行った事がなかったし、名前で呼んでもらった事もなかったもん。私な
んか、藤崎さんの足元にも届かないって思った。そう思う度に、胸が痛かっ
たよ。でも、だからこそ、あなたを想う気持ちも強くなったと思うの。
 時々、他の女の子ともデートしてたよね。わざと人違いのふりをしてあな
たに顔を見せたっけ。あの時は、あなたと、本当にこうして呼びかけてデー
トが出来たらいいなって、それだけ考えてた。いろんな女の子とデートして
いるのを見る度に、次は私も……なんてね。
 え、私があなたの行動を把握していたのって、意外? そ、そうかな……。
ずいぶん努力したんだよ。後をつけて住所調べて、調べた住所で電話帳を一
生懸命捜したの。見つけたときは、嬉しかったな……。ついいきなり電話し
ちゃった。話す事もないのにかけちゃって、慌ててごまかして切ったっけ。
 それからも結構大変だったんだから。バスケットボールの試合どこである
か聞き回ったもん。この時かな、私がバスケットボールのルール覚えたの。
あなたがどんな活躍してるか、ちゃんと知りたくて。試合、まだ覚えてる?
あなたあんまり背が高くないから、確かGFだったよね。最後のシュートの
アシストパス、はっきり覚えてる。あれで勝ったんだもん。
 相手は大した事のないチームだったみたいだけど、ほら、すごく喜んでた。
こうして両手振り上げてばんざ……あ、当たっちゃった? ごめんね。
 ……まだこうして目を閉じると思い出すの。あの時の嬉しそうな顔。つら
いとき、あなたのあの表情に何度も助けられちゃった。
 それに、進路を調べるのも苦労したっけ。私ね、あなたが地方の大学へ行
かないで欲しいって、それだけは必死で祈ったわ。だって、会えなくなるも
ん……。だから、志望校が二流大学だってわかったとき、嬉しくてちょっと
泣いちゃった。
 あ……思い出して涙が出てきちゃった。変だよね、なんかあの頃の気持ち
急に思い出してきた……。
 あ、そうだ。今日ちょっと面白いもの持ってきたんだ。
 え、おみくじがどうかしたって?
 これ、あなたがひいたのよ。高校の時の初詣に。これが一年生の時で、こ
っちが三年生の時の。あんまりいいおみくじじゃないけどね。私ね、これ見
ながら、あなたと初詣に行ったつもりになってたの。ちょっと暗い楽しみか
な? エヘヘッ。
 え、二年生の時のはどうしたかって? あれは置いてきちゃった。だって、
大凶だったんだもん。それに恋愛の所に叶わないって書いてあるんだよ。そ
んな運勢は神社の神様にお返ししますって思ったの。
 神様にいつも祈ってた。あなたに、この気持ちが伝えられるような強い勇
気をくださいって。でも結局、最後の最後まで言えなかった。出来たのは、
聞いてくれてるかどうかわからない留守番電話と、廊下でわざとぶつかる事。
あなたは、私のこと当たり屋だと思ってた、って言ってたっけ。ごめんね、
迷惑だったでしょう?
 でもよかった。今こうして、あなたといられるだけで、私幸せだもん。
 さて、それじゃ乾杯しましょう。もうひとつ、あなたに渡したいものがあ
るし。もちろん、クリスマスプレゼント。中身は何かって? それは、秘密。
飲物、コーラしかなくてごめんね。じゃ、乾杯……。

 このまま時間が止まればいいのに、とコーラにまるで酔ったみたいに上気
した見晴。ちょんと頭を俺の肩に乗せる。その頭に腕を回して抱きしめなが
ら、俺も思った。
 このまま、時間が止まればいい、と。高校の伝説のように、永遠に。

 窓の外には、白く雪化粧した街路が、青白い街灯に照らされている……。


作者裏話

CDのドラマの続きやんけ、これじゃ。おれはステレオドラマの存在を知る前に この話を書いたんで、妙な符合はステレオドラマの本編とは一切関係ないっす。 何箇所か矛盾してるし。しかし、クラブまではまってるとは。予想外。俺が PSでときめもしてると、藤崎は誕生日固定だからいつも野球部なので。うむー、 まあ、きっと館林への想いと行動パターンって、万人に共通なのでしょう。 それなら説明が付く……かな?(笑)


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